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●2001年4月
自治体から健康診断の案内がくる。希望者は書類に記入して申し込むようになっており、かぼすは会社でうけるからと、ワタシだけ申し込むことに。30歳以上は結核検診と乳ガン検診、子宮ガン検診の3つが対象になっていて暇だし、いっかぁーと軽い気持ちで対象の3つの検診に申し込んだ。
●2001年5月
自治体から、申し込んだ検診の問診票とそれぞれの検診の日程表が郵送されてくる。
●2001年6月28日(木)
第1回目の乳・子宮ガン検診の日。初日は大変混んでかなり待たされる…と聞いて行くのをやめる。
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●2001年7月10日(火)
第2回目の乳・子宮ガン検診の日。暑かったので行くのをやめる。あー。
●2001年7月25日(水)
第3回目の乳・子宮ガン検診の日。面倒だったので行くのをやめる。うー。
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●2001年8月3日(金)
そろそろ仕事しなきゃいかんし、早く検診受けておいたほうが後々いいなと計算。受付時間終了ぎりぎりに行く。乳ガン検診料300円・子宮ガン検診料600円、合計900円支払う。
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とにかくかなりの人・人・人。診察室は町民会館の畳の部屋で、上半身ハダカになって待機。ペラペラの布で仕切っているだけなので、先生との会話が丸聞こえなのがちょっと気になった。呼ばれて入ると、ジップロックのCMの俳優さんが、じゃなくてそっくりの先生が1人。
「えっと家系にガンの人います?」
「いえ、いません」
「なにかご自分で気になることとかありました?」
「いえ。全然ありません」
「んー。ちょっと触診しますから横になってください。こっち頭ね。腕を頭の上で組んでください。」
言われたとおりにすると、サワサワ、上からねっとり押さえるという感じで触診開始。じーと先生の顔を見つめていたら先生の顔が曇ったのがわかった。
「ん?…しこりが・・うん。ある。ありますよ。今までどうしてました?」
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「へ?しこりですか?」
「ほら、ここです。触ってみてください。わかるでしょ?」
確かに言われたところをさわると、コリコリするものがある。
「全然気がつかなかったんですけど。」
「ちょっと大きさが気になりますね。(また触りながら)後日、精密検査依頼書が届くと思いますのでそれをもってなるべく早く病院で、ちゃんとした精密検査をうけてください。」
え?うそ!まじで?
なーんにも考えずにやって来て、いきなりこんな事になるなんて…。
診察室からでると、待っていたおばさまたちの視線を一斉に感じる。「気の毒ねー。」というささやきが聞こえたけど黙って部屋をでた。
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この時点では実はまだよく理解できてなくて、正直いってちょっとネタができたなくらいにしか考えておらず…。家に帰って、かぼすと実家に「検診にひかかった」と連絡。とたんにオロオロ状態になるサイジジ・サイババ。
「いつ、そのなんとか依頼書というのは届くんだ?どこの病院にいったらいいんだ?」
サイジジから聞かれても「さぁ??そのうち送られてくるんじゃないかなぁ」とのんきに回答。「話にならん」と怒られ、いやいや自治体の担当課に電話。
「あのー。乳ガン検診に引っ掛かってしまったんですがぁー。精密検査依頼書っていつ発送されるんですかぁ?」
「今日すぐ発送しますので、明日には届くはずです。大丈夫ですよ!」
「すいません。お手数かけましたー」
と明るく電話を切ってから急に心配になってきた。担当の人の「大丈夫ですよ!」という一言が妙に頭について離れない。何が大丈夫なんだろう。大丈夫って・・。いそいでインターネットで「乳ガン」を検索。
「乳ガン」--字のごとくおっぱいにできるガン。
最近増加傾向にあり、レベル1~5までの段階にわけられる。1~2は良性、3は不明、4~5は悪性…。治療にはおっぱいを切り落とすか温存させるかのどちらか。最近は温存治療が多い。進行は遅いが他に転移するとややこしい。また乳ガンとまぎらわしい病気のひとつに「乳腺線維線腫」というのがあり、これがガン化することはないけれど、稀にこのしこりの中に乳がんを併発していることもあるとかなんとか…。
その時になって、はじめて「ワタシはガンかもしれない」という恐怖心が芽生える。
「おっぱい切り落としたら、温泉に行けなくなる」
「まだ子供も産んでないのにどうしよう」
「他に転移していたら、どうしよう」
「家のローンはどうなる」
「ガン保険入っててよかった」
いろいろなことが浮かんできて頭はパニック。とにかくどこの病院にいけばいいのかそれすらわからない。調べたら婦人科でも内科でもなく乳ガンは外科、その中でも「乳腺外来」で、しかも乳腺専門の医師に診てもらう必要があるとのこと。といってもどこにそんな先生がいらっしゃるかもわからず、たぶんガン専門の病院だったら見てくれるだろうと国立G病院へ問い合わせをする。乳腺外来があるのは週に2日で、毎週火曜日・水曜日の朝8時半~11時半の間に受付。ただしすでに100名近くの予約がはいっているので、初診の方は11時半ギリギリに受付したほうがまだ待たなくていいですよ、とのことだった。
来週火曜日って4日後やん。ワタシ的には今すぐ見て欲しいのに。
乳ガン=死ではない。乳がん検診で引っかかってもガンと診断されるのは1パーセント。というHPの書き込みをみて、少し安心する。
乳ガンは太った人がなりやすいという文をみて、1人怒る。
かぼすはもっと呑気で「みかんの方がガン細胞食い尽くしそうだ」とのたまっておりました。
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●2001年8月4日(土)
大丈夫ですよ!」と自治体の担当の方が言われたとおり郵便で「乳ガン検診結果通知書・紹介状(精密検査依頼書)」が届く。通知書には、昨日問い合わせしたG病院の他に2つの病院が紹介されていた。知り合いが勤務しているので、イザというときイロイロ無理をきいてもらえるかもしれないと、G病院に決定する。サイジジは、近くの本屋にいき「乳ガン」について立ち読みしてきたと言っていた。おっぱいは変化なし。さわればシコリはあるが普段とまったくかわりない。
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●2001年8月7日(火)
1人で行くからいいと言うのにサイババが心配してついて来る。午前11時、G病院で初診受付。外科で待つよう指示される。外科に行ってびっくり。100人なんてものじゃない。人・人・人。人だらけ。イスに座れず立っている人もいた。結局ワタシも座る所がなく、立って待つことに。診察室は1番~3番まであり、どうやら乳ガン関係はすべて1番の診察室になるらしい。ホッとしたような顔で出てくる人、家族がよばれている人などいろいろ…。
1時間後、やっと看護婦さんに名前を呼ばれる。
「えーと、みかんさんは自治体の検診をされて来られたんですね?まずこの用紙に記入お願いします。」
渡された紙には、いろいろ質問が書かれていた。 |
G病院↑なぜか上空から |
●もし自分の病気が治療困難な場合、それについて医師から詳しく説明を聞きたいですか?
「詳しく説明をうけたい」に○
●あなた以外に、説明をきいてほしい人はいますか?
ひとまず「夫」に○
●家族にガンの人はいますか?
「いない」に○ などなど。
看護婦さんに用紙を渡すと、大きな封筒みたいなのを渡された。 |
「初診ですから、まずレントゲンをとってきていただきます。この封筒を○○番にだして、撮影が終わったら、それを受け取ってここに帰ってきてください」
言われた○○番へ。受付で封筒を提出。ドアから人がでてきたら部屋に入って、上半身ハダカで名前を呼ばれるまで待っていてくださいとのこと。おばさまが出てこられたので、いれかわりに小さなドアから中へ。上半身ハダカになって待機。 |
「みかんさん、どうぞ」
名前をいわれて奥の部屋に入ると、レントゲン技師の男性と見た事のない機械が1台。マンモグラフィとよばれる、おっぱいのレントゲン撮影専用の機械らしい。
「ここに立ってくださーい。上からおっぱいを押さえて撮影しますから、ちょぉーっと痛いですが我慢してくださいねぇ~」
と男性はいいながら、慣れた手つきでおっぱいを掴んで台の上に伸ばし始めた。 |
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そして「我慢してくださいね~」と言うやいなや上から板みたいなのが降りてきて、むぎゅーとものすごい圧力でおっぱいがつぶされていく!
「あだだだだだだだっ」
(ワタシは痛みだけは我慢できない性分のため叫ぶクセがあります)
「まだまだまだ、まだですよー」
乳がーっ!乳がーっ!ワタシのおっぱいがーっ!。
(男性はご自分のニョイ棒を上から2cmくらいの厚さにされたとご想像ください)
「ぬぉぉぉぉぉ」
結局、左右のおっぱい、それぞれ横からと上からと2回ずつ撮影。胸のレントゲンと違い、息を止める必要はないのでその点は楽。しかし特に横から撮る場合は、リンパ節も一緒に撮影するためなのか、かなり引っ張られて痛い。
「これはけっこう痛いですねー」
レントゲン技師の方に話しかけると、
「おっぱいが大きい人ほど、上から押さえるわけだから痛いんですよぉ」との返事。あざーす!ナイスフォロー。
部屋からでて3分ほど待った後、撮影したレントゲンを受取り、また外科に移動。看護婦さんに渡して、待つこと2時間。午後2時過ぎ、やっと名前を呼ばれる。先生は年配の男性だった。
さっき撮影したレントゲンが壁に貼られていたけど、素人のワタシにはさっぱりわからず。
「自治体の検診で引っかかったの?」
「はい」
「横になってくれる?腕を頭の上で組んで。ちょっと触診しますね」
上から押さえるような、マッサージするような感じでサワサワ触診開始。
「あー。あるね、しこり。ちょっと大きいね。(横の看護婦さんに)エコーもってきて」
ぺとぺと冷たい液体を塗られて、エコー開始。ワタシも画面見たけど、全然わからない。
「サイズ計りますね」
そういって先生は、脂肪の厚さをはかるような器具をシコリ部分にあてがって計測。そして
「シコリはあります。たださわった感じ、つるつるしてるから大丈夫だと思いますけどね。一応検査しましょう。来週結果を聞きにきてください。」
検査って、また日にちかかるの?来週?ガンだったらどーすんだよぉ。と思いながら、看護婦さんの指示で○○番に行くよういわれる。今日はそこで検査終わったら、そのまま支払して帰っていいですよとのことだった。 |
指示された場所にいくと今度はすぐ名前を呼ばれた。入ると、男性ばかり4名ほどいらっしゃる。
「ここに寝てくださいねー。エコー検査しますのでちょっとヒヤっとするけど我慢してねー」
さきほど診察室でみたのより大きい機械があらわれ、エコー検査開始。しかも横になったワタシを男4人が囲んで、これはまるで「女体盛り」ではないですかっ。
「ないなぁー。」
「ないですねー」
「うーん」
みんなが口々に画面見ながら言っている。ワタシも画面をみたけれど、当然わからず。 | |
「ニップの真下じゃないのかなぁ…。あ、ほらほら、これだこれだ。…はいっ、お願いします。はいっ、お願いします。」
はい、お願いしますと言った時にエコーに写ったのを撮影するらしい。これは痛みなし。
「えーと、みかんさーん。あとぉ、細胞をちょっと取らせてもらいますね。」
え?細胞をとる?
「ちょっとチクっとしますけど、我慢してくださーい」
また我慢してくださいときた。と思ったとたん、ズキーン!!チクじゃないない。
ズキーーン!
しかもおっぱいに注射器みたいなのをさし、シュポシュポ吸い出している。このシュポシュポがまた痛い。
「いたーーーーーっ」
いつものクセで叫ぶと「うん。これは痛いと思うよ。」と横にいた男性があっさり一言。終わった後、ばんそうこをはってもらい終了。
今日支払った金額は3070円。帰りに本屋に寄って立ち読みしたところ、ワタシが今日した検査は「刺吸引細胞診」といって、悪性か良性かがほぼ100%わかる検査とのこと。すぐ結果が知りたいのに1週間後になるなんて、遅すぎるとかぼすは怒っていた。 |
●2001年8月14日(火)
午前10時半、予約時間より30分早く病院到着。今回は、場合によっては家族も説明を受ける場合もあるかもしれないと、サイババとかぼすが一緒についてくる。待合室はあいかわらずすごい人で、待つこと約1時間。11時半すぎに名前をよばれる。診察室に入ると、先生はカルテをみておられました。
「えーと、みかんさん。んー…。」
しばしの沈黙。
「たぶん大丈夫だと思います。たぶん良性と思います。」
「たぶん」て、検査したのにその曖昧な回答は…。「穿刺吸引細胞診」て100%わかるんじゃなかったの。先生は淡々と話す。
「ただね。普通ね。こういう良性のしこりは18歳から20代前半できるんですよ。」
おーーーーーーーー?ということはぁ?ということはぁ?。
ワタシの体は若い。まだ青春真っ只中ということ?
病気のことよりも、18歳から20歳という言葉が頭をかけめぐりはじめ、ちょっとニヤけた顔に…。
「しかしあなたの年齢でできる場合、良性といってもまれに検査で引っ掛からない、ちいさなガン細胞がまぎれていることがあります。できたら今のうちにしこりを取ってしまう事をお勧めします。取ると言っても、ちょっとおっぱいの下からメスできって取るだけですから。入院もしなくても大丈夫です。局部麻酔でいけますから。傷もそんなに目立たないですよ。」
「…」
「今日決めなくてもいいですよ。お家に帰ってゆっくり考えt」
「いえっ!切ってください。かまいません。切ってください。」
「え。あ、いいんですか?あー…ではいつにしましょうか?月・水・金のどれかを選んでください。」
ワタシがあまりにも早く即決したので、先生は少し驚かれておりました。半分その場のノリで、来週水曜日に切ることに決定。22日の午前11時に予約をとる。朝食はとってかまわないけど、昼食はダメ。手術は約30分くらいで終わるから、緊張せず軽い気持ちで来てくださいと看護婦さんに言われる。
今回の支払金額140円。検査もなく、ただ先生の説明を聞いただけなので、こんなものか。結局、18歳の言葉で有頂天になってしまい、正確な病名はなんだったのか、そして「たぶん」とはどういうことなのか先生に聞くのを忘れ、後でサイジジに怒られました。家に帰って一応ネットで検索。
細胞診(穿刺吸引細胞診)による判定分類
クラスⅠ |
異型細胞のないもの |
クラスⅡ |
異型細胞は存在するが、悪性ではないもの |
クラスⅢ |
悪性と疑わしい細胞が存在するが、悪性と断定できないもの |
クラスⅣ |
悪性細胞の可能性が強い |
クラスⅤ |
確実に悪性であるもの |
おそらくワタシは『クラスⅢ』…良性とも悪性とも、どちらとも判断できないものだったんではなかったのかと思います。先生は軽~い感じでおっしゃいましたが、切ることを進めるということは多分「摘出生検」といわれる、結局ガンかどうかさらに確かめるため、手術によってしこりを切除、取ったしこりを顕微鏡で見て診断する、という検査も兼ねているのではないかと思ってます。
そういえば承諾書とかナニも記入しなかったなあ。診察室に入る前は、あれも聞こう・これも聞こうと考えているのですが、実際診察室に入ると、ただ先生の話をきくだけで終わってしまい、肝心なことは何一つ聞けてないというこの事実。我ながら反省してます。
●2001年8月18日(土)
当分行けなくなるかもしれないと温泉に行く。入浴時、ワタシの前に片方のおっぱいが全くない女性が入ってきて、おそらく温存はしなかったのでしょう。ご本人は堂々とされてましたが、やはり注目の的になっており、もしかしたらワタシもこうなっていたかもしれないと思うと複雑な思いに。
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●2001年8月21日(火)
朝サイジジから電話があり、お金はちゃんと用意したのかとのこと。考えてみれば、一応体を切って中身とるんだから「手術」扱いになるんだろうし、そーだ。どのくらいお金かかるんだろう!健康だけが取り柄だったので、まったく見当がつかない。ひとまず銀行にいって5万円下ろしてくる。
●2001年8月22日(水)
いよいよ本日しこりを取る日。10時45分着。かぼすとサイババがついてくる。サイジジやおばも来るというので、たかがちょっと切るくらいで大袈裟なと断った。
11時の予約だったけど、またもや待たされ名前をよばれたのは12時すぎ。 看護婦さんに名前をよばれたのはワタシと、あともう1人年配の女性の2名。どうやらこの女性もワタシと同じく切るらしい。
「えーと、みかんさんと○○さん、これから手術室に移動していただきます。」
へ?手術室?
正直いって呑気に、処置室でちょっと消毒してちょいと麻酔して、ちょいと切るんだろうくらいに、軽ーく考えていたので、看護婦さんの手術室という言葉に驚いてしまった。サイババも同じらしく、目を白黒させている。
みかねて看護婦さんは
「おかーさまですか?手術は30分くらいで終わりますから、ここで待ってても大丈夫ですよ。」
とサイババに声をかけてくれておりました。(また後では、今手術始まりました。今終わりました。と逐一報告してくれたらしい。)
ということで、看護婦さんとその女性と3人でいざ移動。手術室は3階にあるので階段であがり、暗い廊下を歩いて向かう。
「この前、○○さんには説明させていただいたのですが、みかんさんはまだですよね。手術は約30分くらいかかります。」
と看護婦さん。どうやら、やはり他の方はその場で切ると即決する人は少ないらしく、またちゃんと事前に先生に説明してもらっているらしい。あー。ワタシはあんまり聞かずに決めてしまったー。なんにも聞いてないや。モヤモヤしながらも、看護婦さんの説明は続く。
「局部麻酔ですので、麻酔の注射は痛いですけど、後は痛みはありません。ただシコリを切るとき、どうしてもひっぱられる感じはあります。もし痛かったら、痛いとはっきり先生にいってくださいね。緊張しなくても大丈夫ですよ。」
「あのー。切ったしこりを見たいのですが、見させていただけるんですか?」
横の年配の女性がぎょっとした目でワタシを見た。
「わかりました。先生にお話しておきますね。はい、ここで一度靴をはきかえてください。」
指示どおり、スリッパに履きかえる。自動ドアがあり、奥にすすむ。
「すいません。ここでまたスリッパを履き替えてください。」
言われたとおり、スリッパを再度履き替え。また自動ドアから奥へと進む。廊下をはさんで左右は、機材がごちゃごちゃにならんでいて、そこにいる人はみんな、白衣ではなく緑のいかにも手術用の服に帽子、そしてマスクをしている。
「はい、この部屋で着替えていただきます。薬品等で服が汚れたらいけませんのでズボン・スカート等も脱いでくださいね。あと時計・指輪・ピアスなどされてましたら取ってください。電気メスを使いますので、感電事故があったらいけませんから。それと、貴重品は手術室に持って入ってきください。」
電気メス使うってこれぞまさしく「手術」! でも貴重品持って入っていいって、手術室って厳重に消毒されたところじゃないの?
初めての経験なので、緊張するなといってもだんだん緊張してくる。部屋に入り、手術用の服と帽子を着用。待つあいだ、女性と「ドキドキしますねー」と雑談。しばらくして「みかんさんが先です」といかにも手術の助手してますって感じの若い女性が呼びにやってきた。
通されたのは、本当の手術室。けっこうヒャっとしてて肌寒い。ただしなぜかドアは開いた状態で締める気配はない。ワタシが入ると、緑の服にマスクした姿の、執刀医らしい年配の男性と、研修医らしい若い男性が2人イスにすわってくつろいでおられ、ワタシの姿を見るや、バタバタと準備をはじめだした。
「緊張しますぅー」
助手の女性に話しかけるとにっこり微笑まれ、大丈夫ですよーとのこと。
「こっちを頭にして寝てください。」
いわれたとおり台の上で横になる。おっと、このベットは暖かい。
「ちょっと胸見せてね」
先生はそういうと胸をさわり、しこりの位置を確認。
「ここだね」
若い医師にも触らせ「あーここですね」と会話している。そしてワタシにも「これですね?」と触らせ再確認。「はい」と返事するとマジックみたいなもので印をつけ、そのまま2人は出て行ってしまった。
すぐさま助手の方がペタペタとワタシの体にナニか貼りはじめ、貼ったとたんにピコっピコッと音が聞こえたので、たぶん心電図なのでしょう。そして腕をのばすよう言われ、はりつけのような格好で両腕を固定される。たしかに局部麻酔ということは脳はしっかりしているわけだから、腕を動かされては危険だものなぁ。左うでに血圧測定機設置。時間がくると勝手にぶしゅーと膨らみ始め、自動で測定するらしい。
そうこうするうちに、さっきの先生2名がゴム手袋をして帰ってきた。ペロペロとなにかワタシのおっぱいに塗りたくり始める。消毒液?と思うやバサッと、緑のナイロンを上半身から顔にかけられたので、後は音声のみの確認となる。
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(以下、年配の執刀医をA先生、若い研修医らしい先生をB先生と呼ぶことにします。)
A先生 「みかんさん、結婚されてます?」
「はい。してます。」
A先生 「結婚しててもね。傷は残らないようにちゃんとしますからね。安心してください。痛かったら、痛いとはっきり言ってくださいね。」
「はい。お願いします。」 |
↑多分こんな感じ |
としばらく沈黙があったかと思うと、A先生、B先生、助手の3人が声をそろえて
「お願いします。」
多分3人でワタシを囲んで、テレビのようにお辞儀したのでしょう。
A先生 「ここを照らして。えー、みかんさん。今から麻酔をします。」
ズキズキズキっとおっぱいに3箇所の激痛。特にワタシのしこりは乳頭の下にできたので、乳輪の部分にしたはず。
「いたたたたたたた」
痛かったら痛いとはっきり言えといわれてので、遠慮なく言ったら「麻酔は痛いからねー」の一言で終わり。しかも麻酔が効くまで少し時間おくのかと思ったら、そんなことはなく、いきなりサクサクーと切っている感じが…。でも、もう痛みはない。
A先生 「▼□×※○(専門用語でわからず)とって。レベル6.6にあげて」
ジージーと音が聞こえはじめる。焦げ臭い匂いがナイロンの中にひろがる。これってワタシのおっぱいが焦げている匂いなんだー。
B先生 「ここはどうします?」
A先生 「うーん。ここも切ろうか。切ったほうがいいね」
カチャカチャジージー、ピコッピコッ。時々パチッパチッとハサミを使う音。
B先生 「この部分は?」
A先生 「よく押さえてないと、逃げてしまうんだよ。ほら。」
B先生 「あー。そうですね。」
A先生 「おっとと、ごめんごめん。(なにか下に落としたらしい)えーと。ここも切って。そう。ここはどうだろう。あー。」
ジージージージー。
(誰か入ってきた音)「あのー、△△さ~ん。この前言ってたアレはどうなりましたっけ?」
B先生 「えーっとね。○○さんに渡したけどなあ。□□室の机にないかなあ。見てみて。お願いします。」
もしもし?今手術してるんですよね??ね?ね?その会話は一体なに?というか、扉ってずーと開いたままなんだ。細菌とかウイルスとか大丈夫なの?
ワタシのモヤモヤとは関係なく、先生方はいろいろお話をしながら切っていく。そのあいだ助手の女性は一言もしゃべらず。
A先生 「あー。これはきれいだ。」
突然先生の大きな一声。きれいですと?ワタシうまれて今まで、殿方にきれいなんて言われたことはありませんが。
A先生 「これが□※△(専門用語でチンプンカンプン)だね。これはきれいだよ!!みかんさーん。しこりを今確認しましたが、私がみて良性に間違いありません。安心してください。」
とうやらしこりを完全に切り取ったらしく、離れたところでA先生とB先生がなにやら会話しているけど、専門用語でよくわからない。しばらくして今度は切った部分を縫い合わせる作業に入ったらしく、切った皮膚の表面を今度は電気メスで溶かしてひっつけている感じがする。ジージーとまた焦げる音。その上からさらに糸でチクチク縫い合わせているように感じる。だんだん麻酔が切れてきたらしく、所々痛い。
「いて」
叫ぶとB先生が「麻酔打ったほうがいいですかね」「いや、もういいだろう」とA先生。そのまま、「いたっ」「いてっ」と言いながら手術終了。
A先生 「みかんさん、終わりました。」
上半身にかかっていたナイロンをのけてもらい、先生をみると手に豚肉の脂肪のかたまりが。これがしこりデスカー???
A先生 「起きて見られますか?」
「はいっ!」
ベットの上で上半身だけ起こし、しこりを見せてもらう。直径約2.5cmくらいのブヨブヨした真っ白な塊。くすみのない真っ白。ああ、ほんとうにきれいだ。ワタシの心のように真っ白…。
A先生 「今回これだけ取りました。取った部分のうち、これがしこりです。触ってコリコリしていた部分ね。きれいですから、私がみて99%良性に間違いないです。仮にガン細胞が発見されたとしてもまわりこれだけ取りましたから大丈夫です。安心してください。で、糸はそのままでいいですから。抜糸はしません。お風呂は明日から入ってオッケーです。」
「シャワーですか?」
A先生 「いやいや、湯船につかってもらっていいですよ。今日だけ我慢してください。あと運動も明日からね。」
「あ、ありがとうございました!」
先生方にお礼をいって手術室をでる。麻酔だから、結構ジーンとかするのかと思ったら、全然なにもなし。
部屋に戻ると、さっきの女性が着替えて待機していた。顔は不安で泣きそうになっている。ワタシの顔を見るなり
「痛かった?」
「30分って言ってたのに50分もかかってた!」
「切ったしこりは本当に見せてもらったの?」と質問攻め。
「麻酔だけが痛かったですよ。」
「しこりは見せてもらいました。結構きれいでした。(きれいの部分に力をこめて)」
と答えると
「しこりをみるなんて勇気があるわ。私は絶対にいやだわ」との返事。鏡でおっぱいを確認すると自分でも「うわっ」と思うほどの傷。やはり少し腫れているみたいで、縫い目が想像していたのよりすごい。ほんとにキズは目立たなくなるのかしら。しばらくすると準備ができたのか、待機の女性はよばれて出て行き、代わりに看護婦さんが迎えに来てくれた。
「どうでした?痛かったですか?」
「いや。思ったより痛くありませんでした。」
「どうやら、普通より麻酔も少なくて済んだみたいですね。」
あー。それで最後の方は痛かったんだ。ついでに質問。
「前回、先生から正式な病名を聞いてないんですけど、今日これからお話していただけるんでしょうか?」
「今日はね、手術だけなんですよー。今日取ったしこりを検査して、その結果をみての最終判断になりますからー。
たぶん乳腺線維線腫ではないかとワタシは思うんですけどね。」
「…。」 |
「検査の結果は2週間後になりますので、予約を取ってください。あと、お薬がでます。化膿止めと痛み止めです。痛み止めは痛いときだけ飲むようにしてください。」
外科に戻ると、待合室にサイババとかぼすが心配そうに待っていた。ワタシが手術室初体験でヘラヘラ興奮しているのを見て、少し安心したよう。
結果は2週間後ということなので、9月4日に予約をとり帰宅。
今回手術ということで、一体どのくらい請求されるのか、お金足らなかったらどうしようとドキドキしていたけど、請求金額はなんと4290円。日本の健康保険制度はすごいな、改めて思います。
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●2001年9月4日
予約は午前11時半だったので、11時すぎに到着。駐車場が異常に混んでいて、車をとめるのに20分ほど待つ。いそいで2階に上がるが、これまた異常に人が多い。座れる椅子もなく、立っている人人人。ついてきたサイババが横の人に聞くと、10時に予約なのにまだ名前が呼ばれないとのこと。結局名前が呼ばれたのは、午後1時半すぎ。
診察室に入ると、先生はカルテを見ておられました。
「ちょっと跡みせて。んー。えーとね。うん。良性ですね。大丈夫ですよ。はい。お大事に。」 |
え、それだけ?短すぎ!。
確かに先生も、この患者の数では診察もイヤになってしまうのはわかるけど、ワタシだって今日は聞きたいことがあるんだもん。このまま帰るわけにはいかない。
「あのー、病名はなんだったんでしょうか?」
「乳腺症ですね。はい、お大事に。」
「もう大丈夫なんでしょうか?あと、夜になると切ったところが張ってきて、とても痛いんですが、これは仕方ないですか?半年に1回とか検診をうける必要はないですか?」
「んー。切ったからね。大丈夫ですよ。えっとおー。(カルテをパラパラしながら)来年!来年の8月にまた検診にきてください。はい、お大事に。」 | |
かなり先生はイライラされていたようで、結局ワタシは診察室をでました。確かにまだすごい数の人が診察待っているのはわかるけど。やっぱり、なぜこういう病気はおこるのかとか、これから気をつけるべきこととか、色々説明して欲しかったのですが。もっと押しきって聞けばよかったのかなー。なんかちょっと引っ掛かります。
まあ、良性でしこりも取ったことだし、それでいいということなのでしょう。今日の支払額は140円 。これで「しこり騒動」は完全に終わりました。
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●最後に
以上、「良性」との診断をうけることができました。安心しましたが、油断は禁物。一度良性と診断され、しこりを取ったのに、また10年後くらいに今度は悪性のガンとして発見されたという話を聞きました。ホント体ってわかんない。これからワタシも気をつけなくては。
皆様もちゃんと検診をうけるようにしてください。歯医者や内科にくらべて、わざわざ乳腺専門の医師がいる病院をしらべて行くのは確かに面倒だと思いますが、ナニもなければそれでよし。もしもの時も早期発見がキーワードとなります。
今回、なにげなく自治体でうけた乳がん検診は300円でした。これを受けていなかったら、もしこのまま放置して、中に悪性のガン細胞がひそんでいたとしたら…と思うとぞっとします。30歳すぎたら、体もいろいろ変化あります。実感しました。
年に1度は乳ガン検診を!月に1回は自己検診を! |
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